ホンダは「環境負荷ゼロ、交通事故ゼロ、そして、全く新しい体験へ」というキャッチコピーを掲げています。
自動車やバイク、モビリティ、航空機など大きな目標にチャレンジするホンダのこれからの技術について紹介します。
全固体電池
全固体電池とは、電解液がなく正極と負極の間に電解質セパレータ層のみがある電池のことです。
しかし、現在はまだ量産技術が一部のみしか確立されておらず、本格的に使用されるまでに至っておりません。
近年、EV(電気自動車)の普及とともに、その安全性が注目され、自動車メーカーや電機メーカーで研究開発が盛んにおこなわれています。
ホンダも全固体電池を研究・開発するメーカーの一つです。
バッテリーとは「充電」を行い電気を貯め、「放電」でその電気を使用する装置ですが、現在、EVに搭載されるバッテリーは、リチウムイオンバッテリーです。
リチウムイオンバッテリーとはリチウムと呼ばれる金属を使用しており、正極にリチウムをあらかじめ含ませた金属化合物、負極にはリチウムイオンの貯蔵ができる黒鉛を使用しています。
電池内の正極負極間を、リチウムイオンが行き来することで放電・充電を行っています。
既存のリチウムイオンバッテリーは化学反応が起こりやすくイオン電導率に優れた液体が電解質として使用されていますが、リチウムイオン以外の物質にも反応し副反応を起こすため、劣化しやすいのがデメリットです。
また、電解質は有機溶媒で可燃性があり、漏れ出さないように配慮も必要で、ショートしないよう、中央にセパレータを置かねばなりません。
セパレータは熱にも低温にも弱く、バッテリーの動作温度に影響します。
リチウムイオンバッテリーは優れた性能を持ちますが、多くのデメリットを持つバッテリーでもあるのです。
そこで、研究開発が進められているのが全固体電池です。
2011年、液体電解質を上回るイオン伝導率の固体電解質が発見され、全固体電池の研究が始まりました。
固体電解質は液体電解質に比べて科学的に安定しており、副反応も起こりにくい、材質が劣化しにくいといったメリットがあります。
また、固定電解質自体がセパレータを兼ねているので、正極と負極が物理的に接することなく、高い温度でも動作可能です。
そのため、リチウムイオンバッテリーでは使えなかった材料も含めて、電極材料の選択肢が広がり、少ないスペースで高電圧・高容量のバッテリーが可能となりました。
これはEVにも大きな恩恵を受けやすく航続距離の長距離化、安価での提供、充電時間の短縮化、車内スペースを広く取れるなどのメリットがあります。
製品の開発に取り組むホンダ
今のところ量産された全固体電池はまだ販売されておりません。
全固体電池は製造方法について自由度があるため、量産製法の制約を重視せずに、材料性能寄りで開発することも可能ですが、ホンダは商品化に向けて一定サイズの電池で材料仕様と製造仕様の両立する研究を進めています。
全固体電池の製品化にむけて多くの課題があります。
既存のリチウムイオンバッテリーは電解質が液体のため、イオンの移動が容易なのがメリットです。
一方、電解質が固体の全固体電池はイオンの移動がしやすいように、固体電解質内を緻密化するプレス加工や電極と固体電解質の界面の密着性を良好にする特有の加工や材料の選定が必要になります。
プレス加工とは圧縮することで組織の気密性を高め、物理的にイオンの移動を容易にする技術です。ただ、あまり荷重をかけすぎると材料の組織構造が壊れ性能が落ちたり、他の部材が壊れる恐れがあります。
ホンダは量産化のために早いラインルスピードを実現するロールプレスに着目し、生産技術を確立すべくノウハウを蓄積中です。
ホンダは2050年にホンダにかかわるすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルを目指しています。
2024年春には実証ラインを稼働させ、全固体電池を量産する技術を確立していくとのこと。
自動車メーカーとして製品作りに実績のあるホンダの強みを活かし、全固体電池の量産化を実現してくれるでしょう。
UNI-ONE
ホンダが開発するハンズフリーパーソナルモビリティがUNI-ONEです。
座る際は安定したローポジションで、移動の際は座面が上がり目線が立位に近いポジションになります。
車いすや一般的な電動モビリティは立っている人と比べて目線が低いのに対し、UNI-ONEは目線がほぼ立っている人と同じになるので、コミュニケーションが取りやすく、楽しく移動可能です。
また、体重移動で操作するため、車いすとは使い手を使う必要がありません。
人協調バランス制御技術を搭載
搭乗者の歩行するときのような自然が姿勢の動きを姿勢センサーが検知し、その傾きや角速度といったデータを意図推定制御器で演算することで、搭乗者の意図を推定します。
推定結果をもとにUNI-ONEが倒れすぎないように車輪を制御し、自然な挙動を実現するフィードバック制御が行われます。
このフィードバック制御により、ちょっとした挙動で意図通りに移動することができるようになりました。
UNI-ONEは小さな子どもから高齢者まで、様々な人が操縦しやすくなっています。
UNI-ONEの利用が想定されるシーンとは
UNI-ONEによって、長時間の歩行に自信がない年配の方や下肢に障がいのある方でも、移動しながら両手を使い自由に仕事や作業がしやすくなるでしょう。
さまざまなシーンでこれまでにない選択肢を増やし、日常生活をより楽しく過ごし、喜びを拡げることがUNI-ONEのグランドコンセプトです。
また、新たなエンターテイメントとしての活用も想定しています。両手が自由に使えて身体機能を拡張するUNI-ONEの特徴を活かすため、XRゲームへの活用も想定しています。
XRとはExtended Realityの略で、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)といった現実世界と仮想世界を融合することで現実にないものを知覚できるようにする技術のことです。
知能化運転支援
ホンダは2050年に全世界でホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロを目指しています。
バイクや車の安全技術は進化していますが、まだまだ交通事故死者をゼロにすることはできていません。
ホンダはヒューマンエラーをなくし、「人の運転を安全にする」取り組みが必要と考えました。
自動運転の技術が進み、完全無人自動運転の車も登場したことで、ドライバー側のミスはなくなるでしょう。
しかし、自由な移動の喜びを大切にするホンダは、これからも人の運転も重要と考え、知能化運転支援技術によって運転を安全にすることに挑んでいます。
脳の働きとヒューマンエラーの研究
ドライバイーによるヒューマンエラー(誤った運転操作)とは、運転経験不足による危険の見落としや誤操作、体調変化などです。
平成29年版交通安全白書の法令別違反による死亡事故発生件数の68%がヒューマンエラーでした。
すなわちヒューマンエラーをなくすことができれば、事故手低減につなげられます。
ホンダが脳研究を始めたのは、車の性能向上による研究の中で、ドライバーが性能進化を感じる要因と運動行動の関係に注目したのがきっかけでした。
そこから、運転行動と事故の関係を研究し、脳の働きによるヒューマンエラーの関係、ヒューマンエラーを起こさない運転支援へと研究が発展していったのです。
AIによってリスクミニマムの運転へと導く
脳の働きとヒューマンエラーの研究によって、安全運転に関してリスクの高いドライバーは空間認識力が低く、危険が見えていない、予測していないことがわかりました。
その他にも経験した記憶や知識をもとにリスクを判断していることもわかっています。
安全運転に関するリスクは個人差があるため、すべてのドライバーを支援するには、基準が必要です。
そこで、安全に運転を行う人の脳の働きを、リスクの少ないミニマムな規範運転モデルとして設定しました。
ドライバーの視線の動き、運転操作、周囲の道路状況についてデータを取り、規範運転モデルとドライバーの比較からリスク度を推定し、その差分を埋めるアシストが「知能化運転支援」の考え方です。
知能化運転支援は、ドライバーの運転を矯正するのではなく、AIモデルによって運転が上手になったというような感覚を与えることを目指しています。
それによりドライバーが運転に抱える不安を取り除き、積極的に運転したいという気持ちを引き出すことができると考えています。
知能化運転支援を導入したドライブシミュレーター
現在、知能化運転支援のAIシステムを導入したドライブシミュレーターを制作し、さまざまな人に体験してもらいながら評価と運転データを蓄積中です。
ドライブシミュレーターでは視線の動きと操作情報、走行結果からヒューマンエラーのリスクの度合いを推定し、状況に応じて運転を支援。
ヘッドアップディスプレイによる表示やシートベルトの引き込みなどによる認知のアシスト、ステアリング操作のアシスト、アクセスペダルの反力などで支援します。
さらに、テスト車両で知能化運転支援の体験走行を行っています。
テスト車両はドライバーの視線と顔の向きを測定するモニタリングカメラを搭載。得た情報からAIがリスクを推定し、規範運転モデルに近づける運転支援を行います。
知能化運転支援により、今まで見えていなかった危険をドライバーが認識できるようになり、安全かつスムーズに運転できるようになることで、達成感や満足感を得られるでしょう。
ホンダが世界に展開している安全運転普及活動のネットワークを利用しながら、その国で最も安全な運転をする方の力を借りて、規範運転モデルを構築し、ドライバー一人ひとりにあわせた安心・安全な運転にしたいと考えています。